自然の川は、水によって森から海まで、いろいろな物質やエネルギーが運ばれ、そしてプランクトンや水棲昆虫、魚といった食物連鎖など生態的なことも上流から下流までつながっているのが本来の姿です。
しかし、このつながりを人間の手によって絶ち切られてしまったのが現在の状況だといえます。利根川について見てみると、河口堰、その上流に利根大堰、さらに上流に数々のダム群、そして支流にある取水堰や落差工、砂防堰堤や治山堰堤など横断工作物、これらが魚や水棲昆虫など生き物の登ったり下ったりする活動を妨げています。一応、魚道がある場所もありますが、うまく機能してないのが現状です。
川と海を行き来する魚は、アユを始め、サケ、遡河性のヤマメ、イワナ(サクラマス・アメマス)、そしてウナギなどが挙げられます。この多くが行き来できなくなって、川や湖の漁業は放流に頼らなければ成り立たないということになってしまいました。
そして、安易な放流によって、地域の固有種の乱れや病気のまん延を引き起こす恐れも増えてきてしまいました。
さらに、大水によって土砂が移動して川が常に姿を変えていることは、いろいろな環境が出来るという点で生き物にとっては非常に大切な事ですが、この作用も横断工作物で絶ち切られ棲みづらくなってしまっています。
アユについて、その生活史を見てみると、秋に川を下ったアユは中流から下流の細かい石がたくさんあるところで卵を生みます。孵化した仔魚は流下して、冬の間海で過ごして、春に遡上を始めます。利根川だと4月上旬くらいです。中流域まで達したアユは、石についたコケを食べて大きくなります。そして日照時間が短くなる秋に川を下って卵を生むといった1年で一生を終える魚です。放流アユも、4月上旬頃から各漁協が管理する河川に7〜10gぐらいの稚魚を放流します。あとは天然と同じにコケを食べて大きくなります。放流している種類は群馬県産人工アユ、海産系人工アユ、(最近は放流も減りましたが)琵琶湖産アユなどです。
このアユが河川の構造物によってどのような影響を受けるかというと、
まずは、海に降りる場合、泳ぐ力の弱い稚魚は流れに乗って下ります。そのため大量の水を取水する所では、海へたどり着ける本流を降りられず、迷入という致命的なことが起こってしまいます。埼玉県水試の調査では利根大堰で取水する武蔵水路へ6〜11億尾、多い年では94億尾もの稚アユが入り込んだという調査結果が報告されています。この多くは死亡し、一部は東京湾に下ると推測されます。東京湾に下ったアユが江戸川を伝って利根川に登れば良いのですが・・最近のNHKの番組では多摩川にたくさんのアユが登って、それは利根川由来のアユだったと伝えていました。
そして、何とか海にたどり着き大きくなって川を遡ってきても、利根大堰の高い壁に阻まれてしまいます。ここには魚道がありますが、川幅400mの間に幅3.5mのものがたったの3本だけです。さらに、その登り口を探すのがまた大変で、右往左往しているうちに密猟者に釣られたり、鳥に食べられたりして、魚道を登れるのは平均すると20万尾・約2トンだと言われています。群馬県内で放流するアユが20〜25トン程度ですから、その1割にしかならない数字です。
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